ホーム > ライブラリー > 234号(1992年12月)> 伊藤建築設計事務所に期待する

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用途と形
島崎 勉
愛知県建築部長

物の形。例えば椅子の形を考えてみると、色々なバラェティはあるが、いずれも座るという機能を満足させるように作られている。そして細かく分類すれば、会議用とか事務用、観劇や休息用など、用途によって形も変化させてある。我々人間を含む生き物にしても、食物を探すために移動する手段としての足や、食物を食べるための口等、必要な機能は共通している。が、陸上に棲むか海中に棲むか、又どのような食物を食べるか等、いわば用途によって生き物の形が変化しているのは日常目にするところである。
そこで建物はどうかと考えてみる。建築界と一番関係の深い建築基準法によると、建築物の定義は土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱、壁を有するものと定められている。このように建築物の機能は明確であり、一方、用途による形の変化は特殊建築物として想定されているといえる。まず、用途の分類を建築着工統計で見ると、居住専用、商業・サービス業用、鉱工業用等を含めて6分類に分けられている。一般的には住宅着工が経済動向との関連で新聞等でもよく紹介されているが、その他の用途についてはあまり目に触れる機会が無い。住宅や商業建築や学校・美術館など公共建築物は用途や形が議論されるが、工業用建物にデザインや景観が議論されることはあるのだろうか。愛知県は工業生産では全国一の出荷高を誇っており、工業用途の建築物の数も多い。従って、その動向に無関心ではいられない。ここ10年間の愛知県建築物に占める工業用建築物の床面積は1981年度は15.9%。10年を経た昨年度は18.1%と伸びており、シェアは大きく、その投資額も無視できない。これらの工業用建築物がどのような場所にどのような設計で建てられているかということは着工統計からはわからないが、建築場所はたぶん準工業地域や工業地等であろう。これら工業系用途に関し何を基準に用途規制が定められており、それは建物の形と関連させることができるのかと、考えてみる。建築基準法の別表では主として市街地環境確保の観点から工業用地、あるいは準工業用地が定められており、環境問題の典型例としては、大気、水質、土壌、振動、騒音、地盤沈下、悪臭のいわゆる7公害他、多岐にわたる。そして、建物用途制度で対象とされるものは用途と環境阻害との対応が明確であることと、地域地区別制という街区単位の規制になじむことが必要であるという。これをベースに用途地域における規制対象を述べてみると、準工業地域では火災と有毒、非衛生であり、商業地域ではそれに加えて粉じんと悪臭であり、住居地域では更にこれらに加えて振動と騒音となっている。用途規制と形とは結びついていないわけである。今後の都市型産業を考えるに当って、形が見えてくるような仕掛けが必要ではないだろうか。工場建築物のデザインや都市施設としての他の建築物との係わりがあまり議論されないのは、発注主体がメーカー等であることのほか、設計の難易度からみて、比較的低いと考えられていることにもよるのではないかとも思われる。
これは建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準によってもわかる。建設省告示1206号によれば、建築物の用途は4分類されており、工場用途は車庫等とともに第1類に入っている。この分類は実態調査等に基づくもので、単独の工場建築としては問題ない。しかし今後の市街地像の一つとして適切な混合用途型の街づくりは必要であり、工業用途との複合建築物が出てくるのではないだろうか。確かに今までは街中に工場があった。特に準工業地域などは混合用途の典型といえた。ところが、近年、公害問題や地価高騰等により街中の工業用途は駆逐されているわけだが、都市の活性化や経済効果から考えても工業系用途が残される工夫が必要である。そこで、例えば研究所的工場や、新しい業態の出現を期待して告示第3類の複合建築物としての対応を研究していきたいと考えている。

島崎 勉(しまざき つとむ)
1943年生まれ。
1966年 東京大学工学部卒業。現在、愛知県建築部長。建設省住宅局市街地建築課課長歴任後、現職。

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